東京高等裁判所 昭和42年(ツ)115号 判決
原判決が適法に確定した事実によれば、上告人は、被上告人の名誉が害されるであろうという認識のもとに、被上告人の妻政子と上告人間の調停事件の担当調停委員に対し、文書その一を提出交付したのであり、右文書その一には、政子を代理する被上告人が、事件(政子と上告人間の横浜簡易裁判所昭和三六年(ハ)第二号過払金返還請求事件)の調停回付に反対し、どこまでも訴訟マニヤの本性を発揮しようと計画しているとか、被上告人のために過去数百人の者が泣き、将来もこの訴訟マニヤの精神異常者が善良な他人に迷惑をかけないようにめざめさせていただきたいとか、被上告人は横浜米軍の下部使用人であるが、四年程前は憲兵隊の身分証明書の指紋を採る係りで、当時多くの人が彼の為に泣き、最後には他人の印を不正使用して首になつたそうです等、具体的事実を摘示し、あるいは被上告人に対する抽象的価値判断を表示して、被上告人を誹謗したというのである。右事実関係のもとでは、調停手続の非公開、調停委員会の評議の秘密、職員の秘密保持義務等所論の指摘する諸点を考慮しても、原審がその判示のごとき情況のもとにおいて文書その一を調停委員へ提出、交付したことは、上告人自身の権利防禦の必要性の限度を越えるもので、これによつて被上告人の名誉が侵害された旨およびこれを知つて精神的苦痛を受けた被上告人に対し、上告人はその精神上の損害を賠償すべき旨判示したのは相当である。原判決には、所論にいう憲法三一条の立法精神に違背する等の違法はなく、論旨は採用できない。
(岸上 小野沢 大石)